コーヒーからはじまる一日
まずお湯を沸かし、トースターにパンを放り込み、コーヒー豆はどれがいいかなと順番に指差しながら、これっと決める。そして手動ミルで選んだ豆をゴリゴリと挽く。
くすんだ水色のホーローのやかんから、沸騰する直前の蒸気の揺れの音が聞こえると、コンロの火を止め、まずはコーヒーの器具を、次にマグカップにお湯を注ぎ、温める。
そこまで来ると、眠そうに髪の毛をボサボサと掻き、寝巻きのウエスト部分に左手を突っ込みながら、彼がキッチンに近づいてくる。
彼は、トースターの窓からパンの焼け具合をじっと見て、彼なりのちょうどいいと思うタイミングを見極める。しかし、ここだというタイミングで開けても、焦げ具合が思ったよりも薄く”まだだった”と閉め、うっすら赤くなった扉越しに眺めながら待つ。これは、毎日のお決まりの光景になりつつある。
パンとコーヒーの香りが広がって、いただきますとサラッと口から出た言葉もいっしょにむしゃむしゃと食べる。この一日の始まりはベットにいた時のゆったりした気分から、それぞれの日中の活動までの体と心のグラデーションを作るのに必要だなとぼんやり思う。
さて、今日は何しようか。どんな一日になるんだろうか。”こうしようと思ったこと”はどれくらいできて、”こうしようと思っていたこと以外”のことはどれくらいになるんだろうか。
ただ、何が起きても楽しいことが多いと嬉しいんだけど。
彼を送り出し、
昨夜、イラストレーターを開き、日本酒を飲みながら、思いのままにロゴをデザインしていたことを思い出す。
一夜寝かした、ロゴは朝見ても、いいなと思うものだったので
それを元にまず、看板を作ることにした。
倉庫の中から適当な木を持ってきて、きれいに掃除をする。
アクリル絵具のチューブと筆をもつ手。ふーっと集中する。
私はどこにいるのか、今は何時なのか、春なのか夏なのか、暑いのか寒いのか、晴れているのか雨なのか、お腹が空いているのかどうか、絵を描いているとき、絵を描くこと以外のすべての感覚が気を使っているみたいにひっそりと息をひそめる。
描き終わったとき、なんだかパッとしない、入ってくる光も薄い室内に私はいた。
蛍光灯はなるべくすれば点けたくはないんだよな。でも点けないと暗いな。蛍光灯のあの独特の青白い、硬質なひかりが好きではないんだよな。
そんな息を潜めていた感覚が、じわっと私の頭に流れ込んできて、しまいにはお腹が空く。
あ、もう、お昼の時間だ。
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